パーフェクトワールド

ジョンはいつも兄のアレンが来るのを待って、海に入っていった。
日の出前に起き、日没の黄昏時迄を、兄と共に撮影に費やしていた。
 

ただ、その水曜日の光と波は完璧だった。

フォトグラファーにとって表現とは、その時そこにいて、その一瞬を切り取ることに他ならない。

ジョンはその波を無視することが出来なかった。濃密で重厚な時間は刹那的に薄れてゆく。

彼は兄の到着を待たず海に入っていった。

 

2005 2・9 彼の遺体は大きな波によって浅瀬へ運ばれた。
岩礁に頭部を砕かれ、致命的な傷を負っていた。

兄のアレンはジョンの腕時計とフィンで彼の遺体であることを確認した。

ジョンは33才だった。

 

街で小さなギャラリーを見つけると思わず立ち寄ってしまう。

土産物のポスターや無名の作家の作品が所狭しと並べてある。
それらのなかに気に入った作品が在れば幸いだ。
価値が無くても構わない。生活を彩ることが出来ればいい。
ただその作家が後に評価されたり、既に評価を得ていることが解ればそれは本当に嬉しい。

ギャラリーのオーナーは最初から気付いていた。
土産品のポスターの説明を聴きながら自分の目は一点を見ていた。
「あの絵の作家は五年前に亡くなったわ。でもね、死ぬ前にコンテンポラリーアートのミュージアムに彼の作品は収蔵されたのよ」

Jon Mozo 彼の代表作をただながめている。

嫌なことや辛いことがあると、部屋の片隅に置かれた彼の作品の前に座る。
 
ジョンはこの作品にこう名付ている。*Her Worlds*